Project Story 04
複雑な構造ゆえの一発勝負。 最先端の工法と緻密な計画で実現させた 「まちと人をつなぐ」建物。
Photo:石井紀久
姪浜エリアのランドマークとなり、
地域の方から愛される施設を目指して
2024年4月19日、福岡市西区姪浜に開業したライフスタイル提案型の複合商業施設『MEINOHAMA STEPS』。食事やショッピングを楽しんでもらうだけでなく、まちと人を繋ぎ、出会いにあふれる新しいランドマークを目指しています。
姪浜エリアを拠点に地域の人々の暮らしを支える事業を展開してきた株式会社サワライズの野口部長と原田課長代理、設計を担当した松山建築設計室の松山代表、施工を手がけた内藤工務店の下山所長にこの建物に対する思いを聞きました。
基本情報
[工事名称] MEINOHAMA STEPS 新築工事
[構造・規模] プレストレスト鉄筋コンクリート造 地上5階建
[延床面積] 2234.16m2
[竣工年] 令和6年3月
[工期] 令和5年3月1日〜令和6年3月28日(開業:令和6年4月19日)
[所在] 福岡市西区姪浜駅南1-10-20
[施設カテゴリ] 商業施設
参加会社
[事業主] 株式会社サワライズ
[設計監理会社] 株式会社松山建築設計室
[施工会社] 株式会社内藤工務店
[担当] 下山所長
ともに新しいチャレンジとなる商業施設の建設
野口部長:
姪浜エリアの地域価値の向上とともに、地域の方々の「充実感に満ちた暮らしづくり」を目指したいと、直営の複合商業施設を建設することになりました。そもそも準都心である姪浜に商業施設を建てることには懸念があります。天神・博多と差別化し、地域と繋がりを持ちながら、姪浜以外からも来ていただけるような建物にしたいと考えました。そこで、2022年1月に松山建築設計室さんにも参加していただき、コンペを行いました。
原田課長代理:
松山建築設計室さんのご提案は型破りで予想外でした。建物のインパクトが飛び抜けていましたね。
松山代表:
私の事務所としても商業施設は初めての挑戦でした。サワライズさんの新しい事業への挑戦と地域に貢献したいという想いに感銘し、ぜひトライしてみたいと思いました。指名を受けてすぐに周辺をリサーチすると、姪浜駅前の大きな都市スケールから住宅街の小さな都市スケールに切り替わる瞬間に敷地がある事がわかりました。この相対するふたつの環境を建築によってグラデ―ション状に接続できないか、という発想がこの形態を生み出す原点になっています。
あらゆる形態を思考した結果、駅側は大きな箱が集積された表情、住宅街側には小さな箱が集積された表情を持つというこの形態に辿り着きました。この階段状の構成によって外部空間が必然的に生まれますので、緑と一体となった階段やテラスをまちに開放させ、人々が集う憩いの場を創出させます。これまでにはない新たな公共性を獲得した、「まちのランドマーク」として存在する建築がこの場所には求められていると感じました。そしてこの建築の形態こそ、長年に渡り地域に貢献されてきたサワライズさんの企業理念ともリンクするものと信じて、その想いを提案書に込めました。
野口部長:
「まちと人のつながりのランドマーク」というコンセプトにとても魅力を感じました。サワライズの新しい事業に可能性と価値を感じていただき、通常の商業施設にはないご提案で、新しい事業を組み込んでいく私たちのチャレンジと、建築もチャレンジするというところも合致しました。
弊社は100年以上の歴史があり、これまで地域密着で医療事業、介護、自動車学校など「暮らしの安心」を提供してきました。その会社が「暮らしの豊かさや喜び」を提供するサービスを考えた結果がこういう形になったのだと思います。2020年のリブランディングの際に掲げた企業スローガン“Rise Your Life.(暮らしを豊かに)”の象徴としてもふさわしいと感じました。
松山代表:
私たちに期待されているのは、他社とは違う提案だと考えていました。コンペ案のプレゼンテーションでは一瞬、場が凍りついたような空気感がありましたので、厳しい結果も覚悟していました。しかし、実は評価が高かったとお聞きし、この建築を生み出した苦悩が報われて大変嬉しかったです。
野口部長:
施工会社は複数の中から決まりました。内藤工務店さんとは今回が初めてのお仕事になりますが、鳥飼八幡宮の祖霊殿を手がけられた実績から技術力の高さはすでに知っていました。
また、数年前に病院の改修工事をされているのを拝見させていただいたことがあり、ずっと頭の中にありました。病院の改修工事はとても大変で難しく、コミュニケーション力と調整力がないとできないからです。技術力だけではない対応力の高さもあると感じました。
原田課長代理:
普段から熱心に訪問していただいていたこともあり、今回お声掛けをし、質と金額を担保できるとして内藤工務店さんに勝ち取っていただきました。
下山所長:
この建物を手がけられたら内藤工務店としてもブランディングになり、技術力のアピールにもなると思いました。ですが、最初にパースを見させてもらった時は「一体これはどうなっているんだ!?」でしたね。
商業施設の施工は初めてでしたし、私としてもチャレンジングな物件でした。本当にできるのか不安もありましたが、正直ワクワクもしました。
野口部長:
構造的にも福岡にはまずないような珍しい建物なので、行政の確認や申請が間に合うか懸念していました。実は最初の計画では1年早くオープンする予定だったんです。
原田課長代理:
設計がほぼ完成した時に、急遽メインエントランス側の角地の土地を購入できることになり、拡張のために設計をやり直していただきました。最初の計画では天井高など物理的なネックもあったので、そこで見直すことができて結果的に良かったです。
松山代表:
最上階まで繋がっていた階段も一部変更したことで、全体的におおらかな空間が生まれ、同時に外部空間の魅力や緑化も高める事ができましたので、最終的には自然と建築が共存する気持ちの良い空間になったと思います。